ここ数日の僅かな好天に恵まれて秋の作業も進んでいます。
今年は山の実のなり具合が良いようですし、特にドングリは豊作の様です。

東京新聞「筆洗」から転載  2014年9月24日
 「枕草子」を持ち出さずとも秋は夕暮れか。夕焼けが美しい季節である。<まっかっかっか空の雲>。空気が澄んで、赤が絶妙な色を広げる。あれは「懐かし光線」である。光線を浴びると人は昔を思い出す▼映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(二〇〇五年)あたりの「昭和ノスタルジー」は、もはや一時的な社会現象ではなく、世の中にどっしりと定着した感じがある▼リーマン・ショック、東日本大震災などの暗い出来事。超高齢化や人口減という真っ暗な将来は、日本人を未来よりも高度成長期だった昭和三十、四十年代の過去に思いを向かわせた。「昔は良かった」である▼一二年十二月の衆院選で、自民党が使った宣伝文句は「日本を、取り戻す。」だった。今さらとはいえ、実に巧みである。取り戻そうというのは元気だった時の日本。あの時代へ帰りましょうよと呼び掛けた。バラ色の将来なんて、誰も信じられない。自民党の訴えは過去を懐かしむ世の中の気分にきれいにはまった▼日本人は劣化したと、最近よく耳にする。ばかげた事件を見れば、同意したくなるが、これもやはり「ノスタルジー」の裏返しか。昔の人は立派だが、今の人は…▼世の中、将来に前を向く気分がもう少しほしい。「過去」が夢とは寂しくないか。夕日をいつまでも見ていたいが、それだけなら、本当に「劣化」しかねない。