凍てついた情景のなかから明日への希望を見いだす。氷の張った水面下に春には新しい芽が水面から顔を出す。
日本も新しい芽が出ることに期待したい。明日から何かが始まる。

東京新聞「筆洗」より転載 2014年11月29日

 ▼東日本大震災が起き、揺れと津波、原発事故に見舞われた日本の人々を想い、<三災後 仁愛の風流れ込む>と詠んだのは、欧州連合(EU)の大統領ヘルマン・ファンロンパイさん(67)だ
 ▼柔和でひょうひょうとした風貌の老紳士は、「敗者を出して終わる交渉は、よい交渉ではない」との信念を持つ老練な政治家であると同時に、二冊の句集を出した俳人でもある
 ▼いや、自身の言葉によれば、彼は「俳句もたしなむ政治家」ではなく、「政治にも携わる俳人」だという。どんな思いでそう称しているのか。句集『Haiku2』の序に、彼の深い哲学がにじむ ▼<人間は無限の中の消えゆく小粒子にすぎません。無限の宇宙にあって、人間は無常の存在であることを痛感するものです。人間が偉大でなりえる世界はこの俗世界のみです。政治家もそれを自覚しなければなりません>
 ▼争いや妬(ねた)みに満ちた俗世界だからこそ、平和や結合への憧れが強くなる。虚(むな)しさや諦念にとらわれるのではなく、「簡素な真実」を求めていく心。俳句とはそういう生き方そのものなのだと、彼は説く 
 ▼初代EU大統領の激務をこなして五年。ファンロンパイさんはまもなく任期を全うする。<枯れ枝に 緑夢見る変わらぬ美><寒空に 見ゆるわが息あたたまり>。芭蕉を敬愛する一人の俳人として、復興へと歩む東北の地を訪れてほしいものだ。