秋の深まりとともに銀杏も身支度を整えています。すっかり葉を落としてしまいました。


山形新聞「談話室」から転載

▼▽目をつむり沈思黙考の後オールバックの髪をかき上げ「ぜひ、私にやらせてください」。神風特攻隊の最初の指揮官にと打診された関行男大尉が、上官に返した言葉という。71年前の10月25日、フィリピン沖に散った。
▼▽本音は違った。従軍記者に話している。「日本もおしまいだよ。ぼくのような優秀なパイロットを殺すなんて」。出撃は、国ではなく最愛の妻のため。「ぼくは彼女を護(まも)るために死ぬんだ」。まだ23歳。春に結婚したばかりだった。城山三郎著「指揮官たちの特攻」にある。
▼▽聞いた後、従軍記者の耳に残る一言があった。「どうして自分が選ばれたのか、よくわからない」。事実、ある士官は関の前に打診を受けながら辞退していた。特攻の後「軍神」と祭り上げられた若人は本県にもいる。崇拝の陰で、本人や遺族の真情はいかばかりだったか。
▼▽相も変わらず若者が使い捨てられている今の日本。過酷な長時間労働やパワハラによる自殺が社会問題化。本紙連載「闇に迫る」ではオレオレ詐欺の受け子が、使い走りの末に裏切られる様子を生々しく告白した。「どうして自分が」の連鎖は、いいかげんに断ち切らねば。
(2015/10/27付)

独り言:同じ「散る」だが、秋にこのコラムを目にすると一層無念さと寂しさが身に染みる。