大荒れの西日本に反してよく冷えた朝でした。
気が付いたらアップ忘れでした。

中日新聞「中日春秋」2016年1月25日
 ▼自分が得意とする芸や技術を他の人間がうまくやってのけることを、日本語では「お株を奪う」というが、英語では「スチール・サンダー」という表現が近い。「カミナリを盗む」。由来が面白い ▼英劇作家のジョン・デニスなる人物。一七〇四年、画期的なカミナリの効果音の出し方を編み出した。意気込んで舞台に臨んだが、芝居自体は不評でさっさと打ち切られた ▼失意のデニスさん。その後にかかった他の劇団の芝居を観客席で見て、ある場面で耳を疑う。自分が発明したカミナリの効果音が使われている。怒って叫んだ。「なんてことだ。やつらはオレのカミナリを盗んだ」 ▼カミナリを奪い返したか。大関琴奨菊の初優勝である。モンゴル勢らに押され、日本出身力士の賜杯は十年ぶり。国際化を図る大相撲において、この十年は必要な変化の過程ながらも、勝たねばの空気を背負った日本出身力士には苦しい期間だったに違いない ▼スキージャンプ発祥の地はノルウェーだが、日本の高梨沙羅選手が圧倒的な強さを見せる。国境のない現代スポーツの世界は、その国のお株を奪ったり、奪われたりである ▼日本出身力士の優勝が話題になる。大相撲が世界に開かれている証しでもあろう。叫ぶべきは「われわれのカミナリが世界に広がっている」という喜びの声か。だからこそ、琴奨菊への賜杯の価値も一層高くなる。