ただの雪山も見様によっては高山に見えます。



南日本新聞「南風録」2016年1月30日
 ▼「矜持(きょうじ)」という言葉は、あまり新聞で使わない。「矜」が常用漢字ではないためだ。「誇り」や「自負」に書き換えて使うことが多い。  ▼英語に訳せばすべて「プライド」になるのだろうが、語感は微妙に違う気がする。ユニークな解釈で知られる新明解国語辞典には「自分自身をエリートだと、積極的に思う気持ち」とあって、ちょっと納得した。  ▼甘利明経済再生担当相が金銭授受問題で辞任した。会見では「政治家としての矜持に鑑み」と口にした。「人間の品格を疑われる」「政治家としての美学に反する」と語気を強める場面もあった。安倍政権の要としての強烈なプライドがにじんだ。  ▼だが、その矜持と品格と美学の持ち主ですら、大臣室で50万円を抵抗なく受け取ってしまった。普通の感覚では菓子折りに入った現金はかなり怪しいが、政治家にはおぼろげな記憶しか残らないらしい。  ▼政界で「立たぬ札束」は、はした金といわれたという。海部俊樹元首相が「政治とカネ」(新潮新書)で昭和の政治を振り返っていた。「立つ金」とは300万円だったそうだ。また繰り返された政治とカネ問題の根深さにため息が出る。  ▼自民党幹部から「わなにはめられた」との声も出ていた。閣僚が簡単にはめられるほど、菓子折りと共に届く現金は今も政治の日常か。政治家の誇りは大切にしてほしいが、政治家のおごりは腹立たしい。