少数の人を救う難しさの影には、救う制度を悪用する人が必ず存在するということですね。頂点にいる人の中にも底辺にいる人の中にも良くも悪くも同じ様な価値観を持った人が必ずいますね。

南日本新聞社「南風録」 ( 11/27 付 )
 ▼「おなかがすいているんだね」。アンパンマンが自分の顔をちぎって相手に与える優しさは、原作者・やなせたかしさんの従軍経験が原点だという。 ▼正義を信じて戦ったが、敗戦で否定された。「逆転しない正義とは献身と愛だ。それも決して大げさなことではなく、眼(め)の前で餓死(がし)しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えること」。これが原点になったと「アンパンマンの遺書」(岩波書店)にある。 ▼70年前、やなせさんと同じように多くの日本人が飢えのない社会を目指したはずなのに、どうしたことだろう。埼玉県の利根川で、高齢の夫婦と娘が無理心中を図った。生活の苦しさと認知症の妻への介護疲れが原因という。 ▼報道によると、妻は10年ほど前から娘に介護され、夫が新聞配達をして家計を支えていた。だが、夫も体調不良で仕事ができなくなったそうだ。戦中戦後を生きてきた末に生活に行き詰まり、心中を選んだとすれば胸が痛む。 ▼1億総活躍社会の実現を目指す安倍内閣は、施策の一つに「安心につながる社会保障」を掲げる。介護のための離職者をゼロにし、被介護者との共倒れを防ぐ。高齢者の健康寿命も引き上げて、「生涯現役」を支えるという。 ▼実現すればすばらしいが、埼玉の事件を見ると、「活躍の前に安心できる社会を」という思いを強くする。やなせさんの思いがあふれる世にしたい。